お坊さんから聞いた不思議な話をしてみたい
先日。
うちの親族での法事があったので参加してきた。
その時の話である。
この時にきていたお坊さんなんだけど、見た目が若い人で、なかなか話上手であったのだ。
お経を読み終わった後も、お茶を飲みながら色々としゃべるしゃべる。
関西の人ならではなのかもしれないが、なかなかおもしろい話であった。
そこでボクとしても、なんだか話をふってみたくなったので、ちょっと不謹慎かもしれませんがと一言断ってから、怖い体験をしたことはないか聞いてみた。
勿論。
怖い体験といっても物理的な意味ではなく、心霊的な意味でのことだ。
やっはっはっは。
と、お坊さんは笑った。
「いやぁ良く聞かれるんですわ。まぁいうてもね、漫画みたいなことはないですわ。ほら、昔あったじゃないですか、孔雀王とか明王伝レイとかそれ系のモンが。私もそら仏門に入るくらいですから、好きでしたけどね」
お茶を飲みつつ、お坊さんは話を続ける。
「やれ、不動明王さんや、いうて火とか出せるもんやない。むしろ幽霊やらなんやらと戦うこともないですわ。まぁウチら拝むだけで精いっぱい。成仏してくんなはれって思うくらいやね」
むんずと茶菓子をつかみ。
一口で饅頭を食べる。
美味いですな、と一言。
「せやけどね。でも、たまにあるんですわ。たぶん僧侶なんて仕事をしてたら誰でも経験あるのはラップ音やろね。誰もおらんのに急に音が鳴る。私らけっこう慣れてますけど、いまだにビックリしますわ」
「ラップ音ですか。けっこう大きな音が鳴るんですか?」
「ええ。神社さんにお参りする時には、拍手するでしょう。あんな感じですわ」
「ほう。そりゃあ怖いですね。」
お坊さんは細い顎に手をあてて、目をとじた。
「そうですなぁ。まぁ私の修行時代の同期がね、隣の県におるんですけど。このあいだえらい目にあったって話をしてましたわ」
「おおう。そりゃ聞きたい」
ハハとお坊さんは軽くわらった。
「お兄さんも好きですなぁ。まぁそういう私も話す気マンマンなんですけどね」
やぁっはっはっは、と二人して笑う。
そんなボクたちを周囲の人たちはドン引きで見ていたと思うんだな。
「いやまぁ私らこうして法事やなんやかんやいうて、寄せてもらってますけど、中にはどう考えてもおかしいでこりゃあって案件もありますんよ。で、ね。その同期なんですけど、仮にタナカとしときましょか。このタナカんところに、ある日電話がかかってきたワケですわ。しかもお寺の番号やない、プライベートの携帯電話にですねん」
「なんかもう怪しい」
「そうですねん。まぁ私らかてプライベートと仕事はきちっと分けてますから、檀家さん方に電話番号教えるのもお寺で使ってる携帯電話とかですねん。せやから、プライベートの電話にかかってくるってことはヤヤコシイもんや、と。こうタナカも思ったそうですわ」
「なるほどねぇ」
「でね。その電話なんですけど、どうにもこうにも内容がハッキリせんのですわ。とりあえずお経をあげて欲しい、と。いや、お経をあげるのはええんですけど、どんな形になるんですか、とタナカは聞いたそうですわ。ほしたら、とりあえずキてもらえませんか、と。この人、タナカの実家と深い縁のあるスズキさんいう方から紹介してもうたそうですわ。で、タナカもスズキさんの紹介やったらっちゅうことで話を受けたそうなんですな」
「地縁血縁どこでもそんなもんですなぁ」
「私らなんかもうヤヤコシイ関係ようさんありますねんで。まぁそれは置いときまして。それでね、まぁなんやおかしいなぁと思いつつ、タナカは約束した日に車でもって隣の県まで出張ですわ。で、待ち合わせの場所につくとね、こう人当たりの良さそうな夫婦がいらっしゃった。あ、ヤヤコシイこと考えすぎたかな、と一瞬ね、タナカも思ったそうです」
「ほう」
「最初は喫茶店みたいなとこでお茶飲みながら話をしたんですけど、助かりました、ありがとうございます、とね。どこに話を持って行っても断られてたんですわ、なんて話をしてね。それから本題に入ったワケですわ。そこのお家にね、息子さんがおるんですけど、この息子さんがどうにもおかしいと。息子さんの話やと、変なもんが憑いてくるって話でしてね」
「へぇ。そういった話もお坊さんのとこに行くんですねぇ」
「まぁ霊媒師やらなんやら居てますけどね。やっぱり私らのとこにもきますわ。まぁ言うても、私も1回しかあたったことないですわ。私もね、こんな話もってこられてもどうしようもない。お経をムニャムニャ唱えて、喝っとやっときましたわ。お化けとか見えるわけやなし、さっきもいいましたけど、私らお化け退治なんてしてませんからね。妖怪ポストでも手紙だしてくんなはれやって話ですわ。正直いうて」
「そりゃあそうでしょうねぇ」
「で、タナカもおんなじですわ。そんな話されてもどうしようもない。けどまぁせっかくここまできたんやしってことでお家に寄せてもうたんですわ。そしたらもう家の外観からおかしいんですって。その家は一般的な洋風の一軒家やったんですけど、2階の窓のところに張り紙がしてある」
「へえ」
「真っ赤な紙に黒の字でね、悪霊退散って。新沼謙治は恐竜宇宙人って」
「はぁ新沼謙治ですか。それちょっともう違う方向ですね」
「タナカもね、これはもうちょっと精神科のお世話になった方がええんちゃうかと思ったそうですわ。せやけど、親御さん前にしてそんなことよう言いませんわ。で、息子さんとかつれて行ってもうたらね」
お坊さんはそこで残っていたお茶を飲み干した。
「あかん。これはあかんで、と思ったんですって。なんやもう目がおかしい。それで親御さんがあれこれ言うてね、タナカがお経をあげたんですわ。ムニャムニャ言うて、数珠もってジャラジャラいわしたんですな。そしたら、その息子さん、いきなり、ぎゃあああああって叫びましてな」
「ほうほう」
「お経をあげてるタナカもビックリですわ。まさかそんなことになるとも思ってなかったみたいで。それでも途中でやめるワケにはいかんので、最後までお経あげるとね、その息子さん、パタリと気絶しはった。で、タナカもあわててしもてね、とりあえず救急車呼ばないかんか、と。せやけど親御さんが救急車はもうちょっと様子みましょうってなってね。近くにあったベッドに寝かしてたんですって」
「なんか思ってたんと違う」
「で、親御さんからはありがとうございましたと感謝されてたんですけど、タナカは正直もう帰らしてくれと思ってたそうですわ。で、小一時間ほど経過しましてね、そこの息子さんの目が覚めた。そしたらね、タナカに向かっていうワケですわ。お坊さん、あんたのお経は――」
ぱぁん、と音がなった。
お坊さん、ビックリしてた。
ボクもビックリした。
音を鳴らした子どももビックリしてた。
「ええとこで邪魔されましたね」
「いや、ほんま。どないしましょ。ええと、なかったことにはできませんわな」
「まぁとりあえず落ちだけでも」
「いやいや、これはもう落ちませんて。拷問ですわ」
「まぁそうですけど。気になりますやん」
「いや、まぁ落ちいうほどのもんでもないですねん。まぁなんにもなかったということで勘弁してくれません?」
「いやいやいや、ここまできたらもうちょっとだけ、もうちょっとだけがんばりましょう。あ、ボクはなかったことにしますから」
「お兄さん、それは無茶ですわ。イケイケの若手芸人でも空気読むとこですわ」
などとグダグダになった話をしていると、ウチの母親が仕出しの弁当が届いたという話をもってきたんだな、これが。
で、結局は話のオチが聞けなかったわけだ。
だもんで、ここで書いてこの気持ち悪さを共有して欲しいと思った次第である。
さて、どんなオチがまっていたのだろうか。
永久に謎が残ってしまった。
ということで。
なんだか和風な写真をいくつかお口直しに貼っておく。
誰か落としてくれないものか。
合掌。